21-12-2022
S7-E12: Nas『Kings Disease III』【池城美菜子の名盤ライナートークvol.6】
◆〈池城美菜子の名盤ライナートーク〉第6弾、今回は今年2022年にリリースされたナズ(https://spoti.fi/3rYq2oj )の最新作『Kings Disease III』(https://bit.ly/3hpmooh )です。
◆「池城美菜子の名盤ライナートーク」の構成:毎回アルバムを一枚選定。この作品を選んだ理由、作品の概要と背景、全曲解説、そして、このアルバムを語る/楽しむ上では決して外すことの出来ない3曲――今回の場合は、“Michael & Quincey”(https://bit.ly/3HxgImT )、“Reminisce”(https://bit.ly/3hshczZ )、“Once a Man, Twice a Child”(https://bit.ly/3FRSq5V )についての詳細解説と続きます。以下は、企画発案者/MC池城美菜子からの弁になります。皆さん、是非楽しんで下さい。
◆Nas『Kings Disease III』:名盤ライナー・トーク、第6回目はNasの16作目『キングズ・ディズイーズ3(Kings Diseases 3, 以下KD3』です。まさかの2022年度リリース作品。11月11日にリリースされた瞬間に、私が「名盤」認定したアルバムです。プロデューサーのヒットボーイとがっぷり組んだ2020年から始まったキングズ・ディズイーズ・シリーズは3.5部作構成。2020年のKD1、2021年のKD2があって、2022年はEPの『マジック』を挟んで、最終章のKD3という流れです。連作ものはどうしても1作目のインパクトが強く、評価が高いパターンが多いもの。ところが、このシリーズはどんどん評価が高まり、3作目はほぼ完璧で最高評価を得ています。KD1でNasは初めてのグラミー賞を最優秀ラップ・アルバム部門で受賞しているにもかかわらず、です。韻の踏み方、フローの多様性、トピックの切り替え方。意図的にラップのお手本を示しているかのように、引き出しの深さ、多さを徹底的に見せつけます。王様の病とは、欲ばって何事も必要以上に欲しがる、やりすぎてしまうことを指すそう。自分のキャリアを振り返りつつ、人生全体についての考察するのもこのシリーズのテーマです。KD3はその傾向が強く、自分とヒットボーイをマイケル・ジャクソンとクィンシー・ジョーンズになぞらえる“マイケル&クィンシー”や、2022年に再評価ブームが盛り上がったメアリー・J・ブライジの“ユー・リマインド・ミー”を敷いた“レミニス”(思い出に耽る、の意)、老いと向き合った“ワンス・ア・メン・トゥワイス・ア・チャイルド”など、40代後半らしい深い言葉が矢継ぎ早にくり出されます。ライナーノーツよりさらに深く切り込む「全曲解説」をポッドキャストで挑戦した回でもあります。
◆「池城美菜子の名盤ライナートーク」のコンセプト:真新しいCDやレコードのフィルムをペリペリと剥がし、中の「盤」の状態を確認、それからライナー・ノーツを厳かに取り出す。直径が12インチ(30.48センチ)もあるレコードであれば、そのスペースだけで曲名、クレジット、歌詞、そして解説が入っていた。いち音楽ファンとして、音楽ライターとして私はライナー・ノーツが大好きだ。すでに購入したあと、聴く直前に読む文章だから、過剰な宣伝文句はいらない。自分が書くときは「いい買い物をしましたね!」の一言を、思いっきり膨らませようと注力する。聴く人が理解を深めてくれるといいな、と願いながら。さびしいことに、ライナー・ノーツ文化が消えつつある。その「つつ」の部分を引っ張るための企画がこのライナー・トークである。それも、すでに名盤として名高いアルバムの聴きどころと功績を30~40分でしゃべり倒そう、が企画意図。一度、名盤と認定されても、時の経過とともに相対的に評価が上下するのがポップ・ミュージックのおそろしいところだ。その厳しさに耐え抜いている名盤を選び、当時の反響、歌詞の意味、そして月日を経たうえでの歴史的意義を、(基本的には)池城美菜子ひとりで話す。なぜ、ひとりかというと、受け手がいるとその人の発言に引っ張られ、なにを言おうとしたかよく忘れるためである。
◆池城美菜子:1990年代頭より延々とヒップホップ、R&B、レゲエのブラック・ミュージックと周辺カルチャーについての記事の執筆、歌詞対訳、翻訳を手がける。1995~2016年はニューヨークで同じことをしていた。著書3冊、翻訳書2冊。重版がかかったのは音楽以外をテーマにした『ニューヨーク・フーディー マンハッタン&ブルックリン レストラン・ガイド』のみ。文章が難解との評判の『カニエ・ウェスト論 《マイ・ビューティフル・ダーク・ツイステッド・ファンタジー》から読み解く奇才の肖像』(2019年 DUブックス)の翻訳で点滴騒ぎを経験した。
◆では、今回エピソードが浮かび上がらせていく文脈も少しご紹介しておきます――。『Kings Disease』はトリロジー? 普通のトリロジーは1作目が一番良いが、ナズの場合はアルバムを重ねるごとにどんどん良くなっている? 『Kings Disease』は昔話を上手く語るシリーズ? そもそもナズはデビュー当初から昔話をしてきた人? Kings Disease=王様の病気とは、ミニマリストの逆で、際限なく何でも欲しくなってしまう金持ち病のこと? “Michael & Quincey”はマイケル・ジャクソンの曲名をたくさん挿入してリスペクトを表明しているが、同時にマイケルに対して皮肉っぽい冗談を言っている部分もたくさんある? そのバランスがナズらしい? 2022年はハーフタイム・ショーに始まり、メアリー・J・ブライジの再評価が進んだ年?“Reminisce” にもメアリーの曲がサンプリングされている? 『Kings Disease』シリーズはその時々の最新のラップやサウンドに最適化しようとしていない? “WTF SMH”ではトラップ・ラッパーに喧嘩を売っている? ビーフを仕掛けられることが多いナズは“Beef”で「ビーフは自分自身」とラップし、テイラー・スウィフトは最新作で「カルマは自分自身」と歌っている? “Once a Man, Twice a Child”は老成することがテーマ? ヒップホップがそれだけ年齢を重ねたということ? この曲のリリックではニューヨークで初めてベントレーを買った人物たちの名前を羅列しているが、その中に暴行事件の加害者と被害者の名前をさらりと並べているところがすごい?――。
★知っておくと、今回のエピソードがより楽しくなる固有名詞一覧はこちら―― 『シルク・ソニックとの一夜』全曲解説+さらに楽しめる7つのポイント(https://bit.ly/3Wb2CeM )、ケンドリック・ラマー『Mr. Morale & The Big Steppers』全曲解説(https://bit.ly/38QFKOQ )、池城美菜子『NEW YORK FOODIE ニューヨーク・フーディー』(https://bit.ly/3CoIehT )、『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』日本盤(https://amzn.to/3Wdovua )、ハイプ・ウィリアムズ1998年映画『BELLY 血の銃弾』(https://bit.ly/3Oxlq3X )、ナズ&ダミアン・マーリー『Distant Relatives』(https://spoti.fi/3nILiOc )、リゾ“2 Be Loved (Am I Ready)”のミュージック・ヴィデオ(https://bit.ly/3W1qe6c )、ナズ“Hate Me Now” のミュージック・ヴィデオ(https://bit.ly/3YtWWOX )。
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